アメリカ人から見た世界〜アメリカの敵・味方〜

前回の投稿で引用したエコノミスト誌とイギリスのインターネットリサーチ会社YouGovの世論調査は合計457ページの大規模な調査でした。

この調査は調査サンプルを年齢、人種、性別、支持政党、イデオロギー、2016年大統領選挙の投票先などで分類しており、テーマは外交、選挙、現在の政権への評価など多岐に渡るものでした。今回はその中にあるアメリカ人の外交観、外国観を示す調査の結果を紹介します。

これは Friend or Enemy という質問で、いくつかの国の印象について回答者がAlly(味方)、Friendly(友好国)、Unfriendly(非友好国)、Not sure(わからない)の5段階で答えたもの。

アメリカ人が最も信頼している国は隣人

まずアメリカ人が最も信頼している国を紹介しましょう。北の隣人であるカナダです。

カナダをアメリカの「味方」と考えているのは、アメリカ人全体の57%で、6割近いアメリカ人はカナダに対して強い信頼感を持っています。そして、味方というほどではないが少なくとも「友好国」としてカナダを見ているのは全体の28%です。85%という大多数のアメリカ人はカナダに対してポジティブな印象を持っています。

一方でカナダを「非友好国」と見ている人は全体の4%で、明白な「敵」としているのは1%でした。カナダにネガティブなイメージを持っているのはわずか5%でした。

イデオロギー別に見てみると、リベラル派の70%はカナダを「味方」としており、21%が「友好国」であると考えています。これに対し保守派は52%が味方、36%が友好国と答えました。

この事から、保守派よりもリベラル派の方がよりカナダに対して強い親近感を持っているとも言えますが、とりあえず両派ともに約90%の大多数はカナダを少なくとも友好国として見ていますし、保守派の過半数以上もカナダは味方であるとしています。

カナダ=アメリカの親友というイメージ。少なくともアメリカ人にとってはそのようです。実際にアメリカ人とカナダ人は両国を簡単に行き来でき、二国間の交流は非常に盛んです。

 

もう一つの超大国は「信頼できない」

現代アメリカの最大のライバルといえば中国です。近年の中国では科学技術の発展が著しく、特に5G技術ではすでに世界のリーダーとなりつつあります。そのような状況も反映してか、トランプ政権下は貿易戦争を仕掛けるなど、中国を警戒している様子も見えます。

しかしながら、一昔前の米中はChinamerica(チャイナメリカ)と呼ばれるほどの強力な経済の結びつきを持っていました。既に中国製品はアメリカの国内インフラなどにも深く食い込んでおり、今後も中国との関係を完全に断ち切ることなどは出来ません。

そんなライバルであり経済パートナーでもある中国に対し、アメリカ人はややネガティブな印象を持っているようです。

まず中国を「味方」と感じているアメリカ人は全体のわずか4%で、友好的であるとしているのも18%でした。中国にポジティブな印象を持っているのは全体のわずか2割に過ぎません。

反対に「非友好国」であると感じているのは38%、明白な「敵国」として捉えているのは22%でしたので、6割のアメリカ人は中国に悪印象を抱いています。そして残りの19%の人々は「わからない」としており、中国の事を測りかねている、または興味がない層も一定数いるということになります。

そしてイデオロギーや党派で見てみると、特に保守層が中国に対して強い警戒心を持っている事が分かります。

2016年の大統領選挙でトランプに投票した人の内、37%が中国は「非友好国」、そして35%が「敵国」と答えました。同様の傾向は共和党員への調査結果にも見られます。

とはいえリベラル層も中国にフレンドリーなわけではなく、クリントンへ投票した人の46%は「非友好国」、17%は明白な「敵」と答えています。

現在のアメリカ人は満遍なく中国にネガティブなイメージを抱いています。印象的なのは所得別の調査結果です。トランプは2016年の大統領選挙で「労働者層の雇用は中国(や日本)に奪われた」としきりに叫んでいましたが、実は現在雇用に苦しむ年収5万ドル以下の回答者で中国を非友好国あるいは敵国と答えたのは55%なのに対し、年収10万ドル以上の回答者では68%でした。

高所得者層は低所得者層に比べて、より大きな中国への不信感を抱いているようです。一方で低所得者層で「わからない」と答えたのは22%となっており、確信をもって判断出来ない人も多数いるようです。

 

もう一つの隣国への評価は意外な結果

トランプ政権以降でもう一つ、アメリカとの大きな摩擦を抱えている国があります。南の隣国であるメキシコです。北の隣国カナダを深く信頼しているアメリカ人ですが、国境の壁や不法移民の問題があるメキシコへの印象はどうでしょうか。これは少々意外な結果でした。

まず全体では「味方」が19%、「友好国」が39%、「非友好国」が19%、「敵」が5%でした。つまり58%の多数のアメリカ人はメキシコを少なくとも友好的な国として見ています。

特にリベラル派は「味方」が36%で、信頼できる隣人と見ているようなのですが、意外なのは保守派からの印象です。

保守派でメキシコを「味方」と見ているのは全体の10%でしたが、「友好国」と見ているのは42%で、52%はマイルドながらもポジティブな印象を持っているようです。そして「非友好国」と答えたのは28%、「敵国」と答えたのは7%でした。

そして興味深い事に、2016年にトランプに投票した人々でメキシコに「友好国」もしくは「味方」の印象をもつのは全体の56%で、保守派への調査よりもポイントが4%高いことがわかりました。

トランプ大統領は2016年の大統領選挙で、メキシコを通ってやってくる不法移民の排斥を強く主張しました。そしてそういった不法移民対策としてメキシコ国境に壁を建設することを公約とし、その壁の建設費用をメキシコに負担させようとしました。

更にアメリカにおける雇用悪化の原因を、NAFTA(北米自由貿易協定)による製造業のメキシコへの移転に求めるなど、トランプは選挙キャンペーンの中で幾度となくメキシコへの敵対的な態度をアピールしました。

しかしこういった攻撃にも関わらず、メキシコという国そのものにはマイルドながらも友好的に見ている人が多いようです。

 

ロシアは「敵国」か

ロシアに対するイメージは「味方」2%、「友好国」11%、「非友好国」31%、「敵国」37%、「わからない」18%でした。

特にリベラル派はロシアについて強い敵意を持っています。これには2016年の大統領選の期間中に、ロシアが国ぐるみでSNSを利用した選挙操作をしていた事などが響いているかもしれません。ロシアはTwitter等で大量のBOTアカウント(自動的に決まった発言をするアカウント)を作成し、クリントンに対する批判や中傷を発信・拡散しました。選挙後にこれらのが選挙後にニュースメディアで取り上げられました。

それ以外にもロシアのハッカーはクリントンのメールを流出させるなど、数々の選挙干渉を試みており、ロシアゲート疑惑は一応鎮静化されたものの、ロシア政府がハッキング等の手段を用いてトランプの当選をアシストしていた疑いは依然として強いのです。

そういった理由からか、ヒラリー・クリントンへ投票した人々の間でのロシアへの評価は「味方」1%、「友好国」5%、「非友好国」26%、「敵国」が59%でした。約6割がロシアを敵として見ています。しかしロシアへの不信感はトランプ派の間でも広く共有されており、こちらは「非友好国」41%で「敵国」が29%でした。

 

他の友好国たち

その他の国としてアメリカ人が「味方」や「友好国」として見ている国はヨーロッパの国々や韓国、日本などです。

特にイギリスはアメリカ人にとってはカナダに次ぐ最高の「味方」です。国民全体では「味方」55%、「友好国」22%、「非友好」と「敵国」は合わせて8%でした。なお、党派や思想別に見ても、この傾向と大差はありません。

フランスやドイツへの印象は「味方」約40%、「友好国」約30%といった所で、イギリスほどではないものの、それなりの信頼を置いているようです。特に民主党支持層やリベラル派の間ではこれら2ヶ国を「味方」と見ている人が5割を超えています。EUの進歩的な政策が支持されているのかも知れません。

アジアの友好国の一つは韓国です。全体結果では「味方」が37%、「友好国」が28%、「非友好国」が9%、「敵国」が8%、「わからない」が18%でした。

 

アメリカ人にとっての日本

日本の印象はどうでしょうか。全体としてはそれなりに友好的な相手として見ているようです。

全体結果は「味方」が39%、「友好国」が33%、「非友好国」が8%、「敵国」が4%、「わからない」が17%でした。大体、イギリス以外のEU国と同じくらいの印象とみていいでしょう。

党派別やイデオロギー別で見てもこの傾向は変わりませんが、一つ興味深い事は、人種別で見たときに黒人の回答者で「わからない」と答えたのが30%と、他の白人やヒスパニックに比べて高い点です。

マジョリティの白人や、西海岸に多いヒスパニックの間では、日本や日本の外交的立場はそれなりに知られているものの、全土に散らばるマイノリティである黒人コミュニティにとって日本はあまり知られていないのかも知れません。

 

以上、最近の世論調査にあるアメリカ人から見た外国への印象を抜粋して紹介して来ました。

YouGovが公表している調査結果へはこちらからアクセス出来ますので、興味があったらご覧になってください。

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