アメリカで最も著名なラジオパーソナリティで政治コメンテーターのラッシュ・リンボーが、自身の肺がんが進行している事と、更なる検診を受ける為に数日間の休暇を取る事を明らかにしました。
リンボーはアメリカ国内の政治メディアにおける保守派の大物と知られており、メディア業界は大きな衝撃を受けているとのことです。
AP通信の取材を受け、ラジオ業界雑誌Talkersの発行者であるマイケル・ハリソン氏はこの告白に対し、「この業界にとってはとてもショッキングな出来事です。そして政界のエスタブリッシュメント層にとっても衝撃的なことでしょう」と語りました。
ラッシュ・リンボーとは何者か

ラッシュ・リンボーは、69歳のラジオパーソナリティです。
彼のラジオでのキャリアは1970年代に始まり、1988年にニューヨークで自身初の全国規模の番組を担当します。その後は南部へ拠点を移し、現在に至るまで極右コメンテーターとして大きな知名度を獲得してきました。
彼は、良識あるアメリカ人からは共和党に常に肩入れする党派的なコメンテーターとして知られており、度重なる暴言やフェイクニュースの拡散を繰り返す彼の姿勢は、多くの批判に晒されてきました。
一方で、リンボーが自身のキャリアをスタートさせた時代、アメリカではレーガン政権下で放送の自由化が行われ、またケーブルテレビの普及と重なった事で、メディア業界で急激な多チャンネル化が進みました。この時代の流れの中で、一早くニュース専門局として開局されたCNNが大きく台頭しますが、90年代半ばに保守系専門のニュース局であるFOXニュースが開局されると状況が変化します。
従来の地上波テレビのニュース番組やCNNといった中道からややリベラルな姿勢を取るメディアがテレビの言論市場をコントロールしていましたが、そこへFOXニュースが保守系メディアとして切り込み、多くの共和党系の視聴者を取り込む事に成功しました。
それ以前のアメリカではメディア業界では、テレビが中道〜リベラル、ラジオがリンボーのような過激な右派という棲み分けが為されていましたが、FOXニュースの台頭でこの棲み分けが崩される事となります。
そしてFOXニュースは、ショーン・ハニティやセクハラで降板したビル・オライリーといった、リンボーの影響を受けた保守系パーソナリティを次々と番組に起用し、その存在感を大きくしていきました。そして党派性を前面に出す彼らは、その過激な言動によって、ブッシュ政権のイラク戦争期からトランプの台頭に至る現在まで、アメリカの保守層をリードし続けてきたのです。
リンボー自身はテレビメディア上では番組を持ちませんが、彼の過激なスタイルは前述したような様々な保守派のテレビコメンテーターに受け継がれ、現在ではブライトバートを代表とするインターネット上の極右ニュースにも強い影響を与えています。そして彼自身もラジオやインターネット上での発信を続けています。
AP通信のリン・エルバー記者は、このラッシュ・リンボーを『共和党のキングメーカー』と表現しています。
リンボー暴言録
ケーブルニュースのMSNBCはこのリンボーの暴言を記事にまとめてインターネット上で掲載しています。最後にこの記事から、彼のの暴言をいくつか紹介しましょう。
“Women should not be allowed on juries where the accused is a stud.”
「女性は陪審員をやるべきじゃないだろう、被告人が絶倫だったらね。」
“When a gay person turns his back on you, it is anything but an insult; it’s an invitation.”
「ゲイがあんたに背を向けたとしたら、それは侮辱じゃない。誘ってるんだよ。」
“Feminism was established so as to allow unattractive women easier access to the mainstream of society.”
「フェミニズムは、見た目が悪い女性に社会のメインストリームに簡単に行けるようにするために作られた。」
“Women still live longer than men because their lives are easier.”
「女は楽な人生を送ってるから、男より長生き。」
“Holocaust 90 million Indians? Only four million left? They all have casinos, what’s to complain about?”
「インディアンを9,000万人虐殺したって?たった400万人しか生き残らなかった?あいつらはみんなカジノを持ってるだろう。何か文句でも?」
(*歴史上、白人からの迫害によって、インディアンの人々は、虐殺された挙句に生産性の低い土地(保留地)に移住を強制されました。インディアン保留地は適切な投資を受けられなかった為、20世紀中にも彼らの貧困、健康状態の悪さ、低い教育水準は改善されませんでした。国はこの改善の為に1988年、彼らに、合衆国内では原則禁止されているカジノの開業を許可する事となりました。しかし、若干の改善は見られたものの、彼らは未だに苦しい貧困状態にあり、自殺率は他人種よりも格段に高いとされています。)
“I’m a huge supporter of women. What I’m not is a supporter of liberalism. Feminism is what I oppose, and feminism has led women astray. I love women. I don’t know where all this got started. I love the women’s movement, especially when walking behind it.”
「私は女性の大支持者だよ。リベラルの支持者じゃないだけだ。私はフェミニズムに反対する。フェミニズムは女性を堕落させている。私は女性が好きだ、いつからかはわからないが。私は女性の運動が好きだよ、特にその後ろを歩いてる時は。」
“Obama says he’s a Christian, but where’s the evidence?”
「オバマは自身がクリスチャンだっていうけど、証拠はどこにある?」
(*オバマ政権期、リンボーやFOXニュースのコメンテーターをはじめとする極右勢力は、オバマの出生地をアメリカじゃないと言ってみたり、実はムスリムなどというデタラメを拡散して、共和党支持者のオバマへの敵意を煽り続けました。果てにはトランプも選挙中に同じような発言を繰り返しました。)
“If any race of people should not have guilt about slavery, it’s Caucasians.”
「白人は奴隷制への罪悪感を持つべきじゃない。」
“Take that bone out of your nose and call me back.”
「(ラジオ番組内で、電話で出演中の黒人の女性に対して)まずその鼻に刺さっている骨を抜いてから、またかけ直してくれ。」
いかがでしょうか。これらの発言からラジオ番組上で彼がどのようなトークをしているかを窺い知る事ができます。これら全ては2013年より以前の発言です。
トランプの台頭は、日本人の目から見ればあまりにも突然で、アメリカが突如として豹変したかに見えた出来事でしたが、彼のような人物は以前よりアメリカのメディア上で大きな人気を獲得していたのです。トランプ政権は生まれるべくして生まれたのかも知れません。
しかし、仮にリンボーが今後肺がんの治療に専念して発信が弱まる事になった場合、トランプはその最大の支持者にして擁護者を失う事となり、今年11月の大統領選挙にも何らかの影響が現れるかも知れません。
引用及び参考
Star Tribune / Rush Limbaugh says he’s been diagnosed with lung cancer
MSNBC / Rush Limbaugh’s most outrageous moments in 25 years on the radio
Pew Research Center / One-in-four Native Americans and Alaska Natives are living in poverty
すごくおもしろかったです。
FOXニュースについては今度映画になりましたね。
(=^・^=)
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dalichokoさん、コメントありがとうございます。
Bombshellですね!私はまだ観れていないのですが、FOXニュースでのセクハラについての映画のようですね。
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