民主党大統領候補たちの外交戦略〜彼らは中東、北朝鮮、中国をどう見ているか

今週月曜日に行われたアイオワ州の民主党予備選挙。主に投票用のアプリやサーバーの不具合が起こったことで、正確な集計を行うのに想定より時間がかかってしまい、6日にようやく全ての開票結果が発表されました。

結果は1位のピート・ブーティジェッジが26.2%、2位のバーニー・サンダースが26.1%の僅差となりましたが、あまりの僅差であること、そして集計ミスの可能性がメディアから指摘されていることから、党は再点検の申し立て期限を10日まで延長することを発表しました。これにより、結果が確定するのは最速で10日の正午となりましたが、候補者が再点検の申し立てを行い、これが通った場合は更に1日〜数日先となる可能性があります。

大きな混乱に見舞われたアイオワでの初戦ですが、結果は上述したようにブーティジェッジとサンダースの2トップとなり、最有力候補であったジョー・バイデンはなんと3位エリザベス・ウォーレンよりも下位の4位へと沈んでしまいました。

次戦は2月11日のニューハンプシャー州ですが、現時点での世論調査を見ると再びサンダースがバイデンを上回ることが予想されています。

しかしながら、全国世論調査では依然としてバイデンがサンダースを上回っているものが多く、またブーティジェッジが今後も勢いを維持できるのかも分かりません。一つ言えるのは、バイデン一強を追い上げるサンダースという空気感はなくなり、混戦模様に入ってきたということです。

さて、このような民主党予備選の状況を見ていると野党が混乱しているようにも見えるのですが、RealClearPolitics(各社・各機関の世論調査の結果を収集し、平均データを掲載しているニュースサイト)によれば、民主党候補のメジャーな候補者は全員がトランプよりも人気があるというデータを出しています。

トランプ対バイデンの調査では44.7対50.1の5.4%差でバイデン、トランプ対サンダースでは45.3%対49%の3.7%差でサンダースが人気となっています。

ウォーレンやブーティジェッジは彼らより僅差ではありますが、それでもトランプよりはやや優位という見方が出来ます。

つまり、民主党予備選挙そのものは混沌とした状況ではありますが、反面誰もが大統領になるチャンスがあるとも言えるわけです。

そこで今回は、各候補者の外交政策について紹介していきたいと思います。

先日のニューヨークタイムズ紙(以下NYT)のウェブ版で、各候補者の外交政策・軍事についてまとめた記事が掲載されました。記事は質問形式で、10人の候補者(あるいはその政策チームなどの代弁者)がそれぞれ9トピック36問の質問に答えています。

今回はここから筆者が特に注目した発言をピックアップして紹介していきます。

Amy Klobuchar, Pete Buttigieg, Bernie Sanders, Joe Biden, Elizabeth Warren, Tom Steyer
From left, Democratic presidential candidates businessman Tom Steyer, Sen. Elizabeth Warren, D-Mass., former Vice President Joe Biden, Sen. Bernie Sanders, I-Vt., former South Bend Mayor Pete Buttigieg, and Sen. Amy Klobuchar, D-Minn., on stage, Tuesday, Jan. 14, 2020, during a Democratic presidential primary debate hosted by CNN and the Des Moines Register in Des Moines, Iowa. (AP Photo/Patrick Semansky)

海外での軍事力の行使は、エネルギー政策によって分かれる

まず、このQ&A集で第一の質問となっているのは「アメリカ合衆国及び同盟国への攻撃への反撃時を除けば、あなたはどのような状況下でアメリカの軍事力の行使を検討しますか?」というものです。

この質問に対しての各候補者の回答にはそれほど大きな差異はありません。通底している考え方は「軍事力は最終手段である」ことと、「アメリカ人の極めて核心的な利益」を守る時にのみ使用すること。そして大統領が軍事力を行使するハードルを引き上げて、議会の承認などを重視するということです。

また「人道介入への軍事力行使を検討するか」という質問に対しても全員がイエスと答えています。

興味深いのは、エネルギー政策上で軍事力を行使するか否かという点です。

注目すべきは「軍事力を石油の輸送ルート防衛に行使することを検討しますか?」という質問への回答です。具体的にはホルムズ海峡での有志連合の護衛活動に関する質問ですが、ここで候補者のカラーがクッキリと分かれます。

 

中道・穏健左派寄りなバイデンは、以下のように答えています。

「イエス。アメリカ合衆国はエネルギーに関する独立性を高めています。しかし我々の経済は、我々の近しい同盟国たちと同様に、価格のショックに対し依然として脆弱です。よって私は、もし石油の輸送妨害が世界の経済に脅威を与えるならば、同盟国たちとの協調の上で、石油の航行レーンなどを護衛する為に軍事力を行使することを検討します。」

またビリオネアのマイケル・ブルームバーグ候補は更にハッキリと、「イエス。ペルシア湾での航行の自由の保護など限られた状況については、これを支持します」と答えています。

 

これに対し、サンダース、ウォーレンのような進歩派や、ブーティジェッジ、アンドリュー・ヤンのような若い候補者たちは、このような目的での軍事力行使の検討を否定しています。ウォーレンは以下のように回答しています。

「ノー。商業や物流保護の為に、アメリカ軍は同盟国と協力して日々シーレーンの哨戒をしています。しかし、私が石油供給を保護する為に軍事力を行使する事はないでしょう。私には自動車、電気、建設分野の脱炭素化によって、クリーンエネルギーのシェア100%を達成する為の10年計画があり、それが海外産の石油に対する我々の依存を減らす事になるからです。」

 

中道・穏健左派なバイデンは、従来の有志連合の枠組みを大きく否定しませんでした。同盟国との協調の上であれば、彼は中東のシーレーン保護を継続するとしています。

これに対し、進歩派のウォーレンやサンダースは、彼らの環境政策に基づく脱炭素化を進めれば、そもそもこのような米軍のコミットメントは不要になると考えています。

では、バイデンはともかくとして、ウォーレンやサンダースは中東の平和維持をほっぽり出すという事なのでしょうか?ここでイラン政策についての質問を見てみましょう。

 

イランについては、時計を巻き戻す

イランについて最も注目すべき質問は「現状では破棄されている、2015年のイラン核合意をどうしますか?」というものです。

これに対してヤンとデイブ・パトリックは「核兵器、弾道ミサイル、テロリスト対策への不一致を解決する為の”大きな取引”を行う」と答えていますが、他の8人の候補者は「無条件で以前の合意に復帰する」としています。ここでエイミー・クロブシャー上院議員のコメントを取り上げます。

「クロブシャー上院議員にとって、外交政策上で最も優先すべき課題の一つが、イラン核合意への復帰です。これを強化する為に国連やIAEAとも協力を進めます。」

更にサンダースのコメントも見てみましょう。

「バーニーは、イランがその責務・約束を果たしてくれるのであれば、無条件で合意へ復帰するでしょう。そして彼は、弾道ミサイル、テロリストへの支援、人権問題などの諸問題を解決する為の幅広い対話を求める事となるでしょう。」

このように、民主党候補者の主要な立場はオバマ政権時代への回帰です。以前のようにイランに交渉への門戸を開き、経済的な結びつきを強める事でイランの核開発を止めるべきとしており、これでホルムズ海峡保護等の中東地域への軍事的コミットメントを減らせるとしています。

ここで重要なのは、イラン側が以前のようにこれに応じる姿勢があるか否かでしょう。イランにとってみれば、トランプ政権下でアメリカに裏切られたわけですから、簡単に合意を復活させることが出来るかどうかは不透明です。一方ヨーロッパ諸国はこの動きを歓迎するでしょう。

また、イランとの結びつきを強めればイスラエルとの関係は悪化することとなるでしょう。ここからはイスラエル政策について見ていきましょう。

 

イスラエルは現状維持、ただしは進歩派は冷ややか

「アメリカはイスラエルへの軍事援助を今のレベルで維持すべきですか?」という質問に対し、多くの支持者は「イエス」と答えました。つまりイランとの関係は修復しつつも、イスラエルとの関係も維持するという事です。

しかし、進歩派のサンダース、ウォーレンや、ビリオネアで慈善家のトム・ステイヤーは、これに条件を加えるとしています。以下サンダースのコメントです。

「イエス、ただし援助のレベルはイスラエル側が占拠(西岸地区への入植)の停止及び平和合意へ動くか否かによって変化する。アメリカによる援助は、その国の人権への配慮によって調整されるべきであると信じている。アメリカの納税者は、我々の価値観などを損なうような政策を支援するべきではない。

(中略)

彼が援助の調整について述べる上で、重要なのはイスラエルだけがその対象となるわけではないという事です。アメリカ人の納税が他国による人権侵害に利用されないように注意することが重要です。」

ウォーレンも以下のようにコメントしています。

「イスラエルは重要な同盟国であり、私はイスラエルの安全の為に、同じ脅威と戦う為に協力をします。しかし、”二カ国解決”の可能性を保護する事もまた重要です。いくつかの場合において、これは両者(イスラエルとパレスチナ自治政府)の問題行動に対する圧力行使を模索するという意味であり、過去の民主党・共和党の両党の大統領によって行われてきた事でもあります。

今日において、イスラエルの入植拡大と、西岸地区全体の併合を当たり前とするようなイスラエル国内での論調の展開によって、この二カ国解決は重大な危機に瀕しています。トランプ政権は、過去40年間の超党派による慣例を無視し、イスラエルの入植政策を変化させましたが、私はこれを撤回します。そしてイスラエルの入植が国際法に違反という立場に立ちます。更に、もしもイスラエル政府が西岸地域の併合を続けるのであれば、アメリカは一切の支援を終了します。」

ステイヤーも「私は、イスラエルが入植を凍結するか否かによって、アメリカからの援助のレベルを決めるだろう」としています。

つまり、多くの候補者はイランとイスラエルの間で二股をかけようとしている訳ですが、イランの項にあるサンダースの回答も見ればわかるように、進歩派候補者たちは「基本的には誰に対しても平和的にアプローチをする。交渉のドアは開けておく。しかし、相手が民主主義と人権を守るか否かでコミットメントを変えるぞ。」という態度をとっています。

 

北朝鮮は持久戦

ここまでは候補者たちの軍事と中東の平和への基本的な姿勢について紹介してきましたが、彼らは日本の近隣国である北朝鮮や中国のことはどのように見ているのでしょうか。

まず北朝鮮についての候補者たちの立場です。

「北朝鮮が全ての核兵器及び弾道ミサイルの実験プログラムを放棄するまで、経済制裁を強化し続ける可能性はありますか?」という質問に対して、中道・穏健派のバイデンは「イエス」、進歩派のサンダースとウォーレンは「ノー」と回答しました。ここでウォーレンの回答を紹介します。

「経済制裁の強化は北朝鮮に対するアメリカ側の優位を生み出し、核の拡散を防ぐにも有効です。しかし、制裁は北朝鮮の国民を苦しめる事のないように適切に行われる必要があります。制裁の程度は、あくまで必要最低限のレベルに調整されるべきです。現在、我々は核及び長距離弾道ミサイル実験のような危険な挑発行為に対し、制裁を強化すべきです。同時に、非核化の確実なステップに合わせ、二国は適切な制裁緩和をネゴシエートする準備を進めておかなければなりません。」

核の全放棄まで制裁を強化し続ける強硬な姿勢を緩め、段階的な核放棄に合わせて制裁のレベルを下げていく事を取引材料にするという考え方です。

在韓米軍の今後はどう考えているのでしょうか。

「朝鮮半島にいるアメリカ軍の撤退開始に賛成しますか?」

という質問に対し、彼らは全員が「ノー」と答えています。ここでもウォーレンのコメントを紹介しましょう。

「ノー。我々の朝鮮半島でのプレゼンスは、極めて重要な貿易関係や投資、民主主義と人権の促進といった、太平洋諸国における我々の戦略的利益に組み込まれています。我々の当地での軍事的な姿勢が、常に変化する安全保障情勢に適切なものであるかを同盟国と共に確認する必要があるということは理解しています。しかし、我々の韓国での軍事プレゼンスの変化が、北朝鮮との交渉に悪影響を与える事は避けなければなりません。」

また中道・穏健左派のブーティジェッジは北朝鮮政策全般について、以下のようにコメントしています。

「我々は非核化が一夜にして為らないこと、そして長い年月をかけての段階的なアプローチを用いる持久戦を要求されることを受け入れなければなりません。北朝鮮がいきなり全ての核兵器を放棄するという事は、現実的にはあり得ません。朝鮮半島での包括的かつ検証可能な非核化を行うための枠組みを、米国・北朝鮮の両国共同で実行していくことこそが、最も現実的なシナリオであると考えます。」

このように、制裁の更なる強化を行うか否かではやや意見が分かれていますが、長期的な交渉を用いることと、それを進めるために朝鮮半島での軍事力を保持し続けることでは共通しています。彼らのうちの誰が大統領になっても、北朝鮮情勢に急激かつ大きな変化はなさそうです。

イラン政策と比較すると、進歩主義派もやや現実的な見方をしているように思えますが、これは北朝鮮が現実的にアメリカ本土を核攻撃する戦力を保持しているからかも知れません。

 

中国の人権侵害にはNO

NYTの中国関連の質問は人権問題に非常に絞られています。

まずは香港問題からです。「イギリスとの引き渡し合意に基づく香港の政治的独立を尊重することを、米中間の関係と貿易を正常化する為の前提条件ですか?」という質問です。これに対し、全候補者がイエスと答えています。

更に「中国がウイグル人他ムスリムの強制収用を終了させることは、米中間の関係正常化の条件ですか?」という質問があり、これにもブルームバーグを除く全候補者がイエスと回答をしています。

バイデンは以下のようにコメントしています。

「私が大統領であれば、人権は合衆国の外交の中核となるでしょう。アメリカ合衆国は、中国の深まりつつある権威主義を後退させ、北京からの自治と自由を求める香港の勇敢な人々を支援すべく、自由な世界を牽引すべきです。同じことは不当な勾留をされている100万人のウイグル人についても言えます。これは急を要することです。」

続いてウォーレンのコメントです。

「イエス。香港は世界経済にとって独特な役割と、そして中国にとっては必要不可欠な役割を演じています。この役割は、香港が民主的な方針及び伝統を保持することが許されている時にのみ持続可能となります。中国がもし香港返還の為に行われた国際的な合意を守らないとして、諸外国の政府がそこから目を逸らすことはありません。

(中略)

ムスリムや他の人種的マイノリティに対する中国政府の残酷で偏屈な扱いは、国際法と人権への恐るべき侵害です。

(中略)

私の貿易政策では、いかなる国であれ国際的に認められた基本的人権を支持する事が前提条件となります。」

このように、彼ら民主党候補たちは中国の人権侵害に対して厳しい見方を示しています。とはいえ、バイデンはやや現実路線よりなので、何らかの妥協をする可能性が高いでしょう。

しかし、純粋な若者たちの支持に支えられているサンダースやウォーレンのような進歩主義者は、中国国内での人権侵害に大きな改善が見られない限り、厳しい態度を崩さない可能性もあります。ウォーレンは「諸外国の政府」について言及しており、これは日本などの第三国も巻き込むと言っているようにも解釈できます。日本は米中間で今以上に難しい立ち位置に置かれる事となるかも知れません。

さて、民主党候補たちの外交観を紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。

全体的にバイデンら中道・穏健派は従来の民主党政権と同様ですが、サンダースやウォーレンら進歩派は人権や民主主義を外交の主軸としており、イスラエルや中国のような密接な交流がある国に対しても厳しい態度を取ることが予想できるかと思います。

ちなみにウォーレンのコメント抜粋が多いのは、ほとんど全ての質問に対して詳細に回答しているのが彼女だけだったからです。他の候補者よりも几帳面という印象を受けます。こういった質問への答え方で、各候補者たちの性格が見えてくるのは面白いですね。

 

引用・参考

The New York Times / We asked the 2020 Democrats how they’d approach war and peace, diplomacy and national security. Here is what they said.

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