アメリカで広がりを見せる「髪の毛の法律」、CROWN法ってなに?

2月9日のオスカーで受賞したある作品が全米で注目を集めています。

アカデミー短編アニメーション部門で最優秀賞を獲得したHair Loveという作品です。

6分47秒のこの作品では、黒人の少女とその父が、朝の髪の毛のセットに悪戦苦闘する姿が描かれています。

このHair Loveを監督したのは、かつてボルチモア・レイブンスでワイドレシーバーを務めていた経験もある、元プロアメリカンフットボール選手のマシュー・A・チェリー氏です。

チェリー氏は授賞式のスピーチでこのように語りました。

「我々は黒人の自然な黒髪を、社会の中で普通のものとしたい。The CROWN Act(以下クラウン法)は極めて重要な争点だ。」

「髪の毛」と「法律」というのは不思議な組み合わせですが。

今回の記事では、現在全米で広まりつつあると言われる、このクラウン法を紹介します。

クラウン法の正式な呼び名は’Creating a Respectful and Open World for Natural Hair’、これはすなわち『地毛に対して敬意をもち開かれた世界を作る法』という意味です。

この法律は2019年7月にカリフォルニア州で成立した新しい法律です。その後ニューヨーク州でも同等の効力を持つ法律が成立、次いでニュージャージー州の議会がその審議を予告していました。

そして現在ミネソタ州を含む複数の州の議会、あるいは政党が、このクラウン法の審議を検討しています。

ではクラウン法とはどのような法律で、いかなる背景によって拡大しつつあるのでしょうか。

 

髪の毛に起因する人種差別

アメリカで生活する多くの黒人の女性は、自身の髪の毛に関する悩みを抱えています。

これは、Hair Loveで描かれていた少女のような、上手く髪型が決まらないなどといった話とは少し異なります。

問題は彼ら黒人がその髪の毛によって、公の場で差別的な扱いを受けることがあるということにあります。

大手日用品メーカーのユニリーバ、その美容品ブランドであるDoveは、クラウン法の推進を支援している最大の企業です。彼らの調査によって、毛髪による有色人種差別の実態として以下のことが明らかとなりました。

「黒人の女性は行動の傾向として、社会的規範や職場からの期待に応えるために自身の自然な髪の毛を変える確率が、他人種に比べて80%高い。」

「黒人の女性は、その髪の毛を理由として勤務中に帰宅させられる、またはその事を職場で知られてる確率が、他人種と比べて50%高い。」

Dove / Ending Discrimination Against Black Hair with The CROWN Coalition より引用

有色人種、特に黒人の女性は、彼女たち本来の髪質やそれに適した髪型でいることで、特に被雇用者である時に様々な職業上の不利益を被っているのです。

ここで重要なのは、ヨーロッパ中心的な頭髪のスタイルが黒人の女性たちの髪質や髪色などに必ずしも適したものではないということでしょう。

Hair Loveでも描かれていたように、黒人の頭髪の特徴は非常に強い縮毛ですが、特に女性はアメリカ社会で生きるためにこの縮毛矯正など行うことを社会規範などにより強いられているのです。

例えばニュースアナウンサーや政治家など人前に姿を見せる仕事でかつフォーマルな髪型を求められる黒人女性を見ると、その傾向があることに納得せざるを得ません。

カリフォルニア州の新聞、LAタイムズはウェブ版の記事で同州選出でジャマイカとインドの両方にルーツを持つカマーラ・ハリス上院議員の子供時代を紹介していますが、こちらを見てみると彼女の子供時代と現在の髪質が如何に違うかが分かります。

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現在のカマーラ・ハリス上院議員(本人のツイッターより)

記事:11 photos that show Kamala Harris’ childhood in Oakland and life before politics

黒人女性の髪質に合った自然な髪型が、白人中心的な文化の中では不清潔などと見られてしまうことになり、それが彼女たちの社会的な立場を不利にしてしまっている事は大きな問題です。

日本でも地毛が茶髪の女子学生に学校側が黒染めを強制するような指導があり訴訟となった事件などが話題となったようですが、複雑な人種構成を持つアメリカ社会では、そういった外見に関する排除が人種差別という一見異なる別の問題に直結してしまうのです。そして、このような排除、差別的な扱いが横行する状況を解決すべく広がりを見せているのが、このクラウン法なのです。

カリフォルニア州上院で通過した法案を読んでみる

さて、それでは実際にクラウン法が成立したカリフォルニア州での法案はどのようなものだったのかを少し紹介しましょう。

セクション1

(a) 我が国の歴史は、「黒さ」に関する法律や社会規範、そして褐色の肌、縮毛といった身体的な特性を劣等の証とみなすような風潮に満ちあふれており、時にその対象は隔離や不平等な扱いを受けてきました。

(b) このような考え方は社会のプロフェッショナリズムへの理解の中にも浸透しています。プロフェッショナリズムは依然としてヨーロッパ的な特徴や規範と密接につながっています。

そのため、ヨーロッパにルーツを持たない人々は、各々の職業分野でプロであると見なされるために、時にその外見を劇的かつ恒久的に変えることを求められます。

(以下略)

引用:California Legislative Information: Senate Bill No. 188 Discrimination: Hairstyles

このような問題意識から、髪型が主に黒人に対し依然として存在するその頭髪への差別を撤廃するために、上院は州の教育法と行政法に以下の条文を付け足しました。

 

(a) 祖先、肌色、自身の認識する民族、民族的な背景を含む”人種や民族性”

(b) (a)の”人種”とは歴史的に人種と関連する特性が含まれるが、その髪の質感や”プロテクティブヘアスタイル”もこれらに含むものとする

(c) (b)の”プロテクティブヘアスタイル”はブレイズ(コーンロウ)、ドレッド、ツイストを含むものとする

引用:同上

これはつまり、三段階のロジックです。「人種や民族性による差別は禁止する」、「人種とはその人の髪型を含む人種的な特徴である」、「そしてその髪型とはブレイズ、ドレッド、ツイストを含む」という論法で、髪型に起因する人種差別の撤廃を目指す法案となっています。

これらにより、主に黒人が、髪型を理由とした学習機会の喪失や、職業上の不利益(雇用や昇進の機会喪失)を被らない社会作りを目指しています。

このカリフォルニア州で考案された「社会的に容認されるべき髪型」の定義は、その後ニューヨーク州の議会を通過した法案でも模倣されることとなりました。それにより、今後クラウン法が各州に広まる際には、それらの基準となることでしょう。

クラウン法の罰則

このように髪型による人種差別の撤廃を目指すクラウン法ですが、雇用者などがこの法に違反した際の罰則は、各州によって異なります。

カリフォルニア州では雇用者等によるクラウン法違反に対し現時点では明確な罰金や刑罰規定を設けていません。しかしながら、差別的な待遇を受けた被雇用者は今後カリフォルニア州人事省に届け出を行うか、訴訟を起こすことが出来るようになります。

一方で、現時点ではまだ正式に成立していませんが、ニュージャージー州のクラウン法は初めからカリフォルニア州よりも厳しい罰則規定を設けています。

雇用者がクラウン法を破った場合、初犯では1万ドル(約110万円)の罰金措置となります。更に初犯から5年以内に2度目の違反をした場合は最大で2万5千ドル(約275万円)の罰金が課されます。更に初犯から7年以内3回目以降の罰金は最大で5万ドル(約550万円)となります。

このように、クラウン法によって保護される髪型はある程度の基準が明らかになってきているのに対し、罰則については各州で共通することになりそうな大まかな基準が定まっていません。

 

いかがでしたでしょうか。このクラウン法はアメリカに居住する多くの日本人や、旅行でアメリカを訪れる人達には、基本的には無関係なものですが、現地のアメリカ人を雇用する日系企業にとっては、今後重要なトピックとなるかも知れません。

また、日本においては茶色い地毛への差別を解決する方法の一つとして参考に出来るかも知れませんね。

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リンクはこちら→ https://twitter.com/thefilllightjp

 

引用・参考

Sony Picture Animation / Hair Love

Dove / Ending Discrimination Against Black Hair with The CROWN Coalition

California Legislative Information / Senate Bill No. 188

Huffington Post / 4 Questions About Hair That Black Girls Are Tired Of Answering

Los Angeles Times / 11 photos that show Kamala Harris’ childhood in Oakland and life before politics

KCRA3 / 5 things to know about California’s ban on hairstyle discrimination

The New York Times / New Jersey Is Third State to Ban Discrimination Based on Hair

KARE11 / Minnesota State Rep. introduces CROWN Act

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