米ケーブルニュース局の有名司会者が警告「メディアは2016年と同じ過ちを繰り返す」

ここ数日間、アメリカのニュースメディアは、現在民主党予備選をリードしているバーニー・サンダース上院議員のある発言に対し、激烈な反応を示しています。

23日に放送されたCBSのテレビインタビュー上で、彼はキューバのフィデル・カストロの福祉政策に対して好意的な発言をしたのです。

 このビデオの中でサンダースは、彼自身が80年代に残した以下の発言について言及しています。

「…彼(カストロ)は彼らの子供に教育を与え、ヘルスケア制度を与え、社会を完全に変革させた。」

この自身の過去の発言を、現在のサンダースは以下のように擁護しています。

「我々はキューバの権威主義体勢とは全く対照的だ。しかし、単純に(キューバの)全てを良くないというのはアンフェアだ。フィデル・カストロが政権についた時、彼が何をしたか知っているか?彼は国民の識字率を向上させる強力なプログラムを推進した。カストロがやったことだからといって、これは悪いことなのか?」

これにインタビュワーのアンダーソン・クーパーは

「キューバではたくさんの反対者たちが投獄されました」

と言うとサンダースは

「そのとおり。そして我々はそれを批判する。あなたが求めるのならば、ここでハッキリ言っておこう。私は金正恩を良き友人とは思わない、ドナルド・トランプと違ってね。私は人殺しの独裁者とラブレターで文通なんてしない。」

この発言に対し、特に他の民主党員や共和党員、フロリダ州のラテン系住民らは抗議の意を示しています。アメリカにいるラテン系アメリカ人(ヒスパニック)の多くはメキシコなどにルーツを持つ人々なのですが、実はフロリダのラテン系住民たちは彼らと異なりキューバにルーツを持つ人が多いのです。

彼らはフィデル・カストロが起こした社会主義革命によって放逐された、元キューバのブルジョワジーたちであり、それ故にカストロ以降の社会主義体制に対して敵対的なのです。

パニックを起こす、リベラル派エリートたちとマスメディア

更にサンダースは、アメリカの特にリベラル派内に、別の混乱を巻き起こしています。その背景には、彼自身の今回の予備選挙における強さがあります。

22日、アイオワから数えて3州目のネバダ州で民主党予備選挙(党からの大統領候補の選出をするための選挙)が行われました。このネバダ州予備選でサンダースは全候補者でぶっちぎりのトップである34%の票を獲得し、指名獲得レースでトップに躍り出ました。2位のジョー・バイデン前副大統領の票獲得率は17.6%でした。

この勝利によって、サンダースは流れに乗ったとも言えるほどの好調ぶりを示すこととなりました。彼の急進的リベラルともいえる(とアメリカの基準では考えられている)思想や政策に対し、民主党上層部にいるエスタブリッシュメントたちは反対してきました。そして彼らは、焦燥感を強めているのです。

更にポピュリズム的な性格が強いサンダースの選挙運動を、テレビ局やケーブルニュース局、一部の新聞などのマスメディアも、あまり好意的には伝えてきませんでした。そのため彼らも、このサンダースの強さに衝撃を受けています。

こういったメディアや民主党のエスタブリッシュメント層のパニックぶりを、コメディアンのセス・マイヤーズは、自身のNBCの深夜トーク番組 Late Night with Seth Meyers の中で茶化しています。

 

同じNBCのニュース番組で「中道派の候補者三人の獲得票数を合わせれば、サンダースら左派のそれを上回っている」などと伝えている様子を引き合いに出した後で、マイヤーズは

「ああ、その通り。もしもキミがブーティジェッジ、クロブシャー、バイデン(中道左派の三人)の票数を合わせればバーニーに勝てます。だからキミが今一番やらなきゃいけないことは、この三人を遺伝学的に合体させて一人の候補者にする方法を探すことだね。(会場の笑い声)名前はKlobu-Biden-Butti-Char、クロブバィデンブーティチャーだね。」

と言って茶化しています。またその後はリベラル系ケーブル局のMSNBCの司会者クリス・マシューズの発言や、民主党上層部のストラテジストのサンダースに対する発言などを笑いのネタにしています。

このように、コメディアンから笑いのネタにされるメディアの報道ですが、彼らのサンダースへの懐疑的な見方は現在ますます強まっています。それは、彼らの懐疑が、先述したカストロへの発言と結びついたからです。

CNN / Democratic lawmakers slam Sanders’ comments on Fidel Castro policy

このCNNの記事では、サンダースの発言を批判する民主党の議員たちの発言を特集しています。

記事の中で、ニュージャージー選出の連邦上院議員で外交委員を務めるボブ・メネンデス議員の発言を紹介しています。

「彼らは怒り狂っているだろう。私は知っている、カストロの手にかかって死んだ人々のこと、カストロに拷問された人々のこと、そしてあの体制下でひどく虐げられ、今はニュージャージー州に住む人々のことを。100万を超える人々がアメリカに逃れてきた。」

「地元ニュージャージーの事を考えている。我々はそこで三人の新たな下院議員を得た。彼らはその前は共和党を支持していた選挙区から出てきた。彼らがどれほど(地元の投票者たちと)引き裂かれてしまったことだろうか。もしもサンダース議員が大統領候補になったら、彼らはどうすればいい?」

現在下院では民主党が多数派ですが、下院選挙は二年おきで、今年11月の大統領選挙と同じタイミングで改選されます。様々なメディアは、このような議会で多数派を競う民主党議員たちが、サンダースの発言を憂慮する声をクローズアップして伝えています。

このような形で様々なニュースメディアは、サンダースの発言の、特にカストロの社会保障を褒めている部分にフォーカスした報道を行っています。

「過剰な報道だ」声を上げたニュースキャスター

しかし、こういったニュースメディアの姿勢を批判するニュースキャスターが現れました。

それは先に挙げたリベラル系ケーブルニュースのMSNBCで番組を持つ司会者クリス・ヘイズです。

MSNBC Anchors - Season 15
クリス・ヘイズ

彼は、彼が受け持つニューストーク番組 All In with Chris Hayesの中で、こういったメディアからの大規模な反応は「過剰だ」と批判しています。

 

「この選挙には様々な不安があります。たくさんの人々が2016年と、多くの点で同じようなことになってしまうのではないかと心配していますね。ロシアの干渉とか、選挙人制度で一般投票と選挙自体の勝敗が分かれてしまうこととか。

でも、一番の気がかりはメディアでしょう。彼らがどのようにこの選挙を報じるでしょうか。

スクリーンショット 2020-02-26 午後11.40.37
ヒラリー・クリントンについて、投票者たちがメディア上で見聞きした言葉の頻度を表している。圧倒的にemailが大きいことから、メディアがことさら彼女のemail問題ばかりを取り上げていた事がわかる。

驚かないでくださいね。これはギャロップによって作られたもので、2016年にメディア上でヒラリー・クリントンに関するキーワードとして現れた言葉の、それを投票者たちが見聞きした頻度を表すワードクラウドです。

みんなが彼女について知っているのはeメールのことです。それ以外の多くの言葉は、報道価値が低いとして見向きもされていませんでした。

同様の問題は、暴言を繰り返すトランプが如何におかしいかという報道を繰り返していたことにも見られます。もし彼だけに集中して報道することをやめれば、多くの他の候補者たちについて、ニュースで語るべき何かを見つけることも出来たでしょう。

昨日私は、2020年の選挙で、このダイナミクスの最初の予兆となる物を見つけました。そして私は、我々が同じ過ちを犯すことになるのではないかと感じました。

(ここで上述のサンダースのカストロに関する発言を紹介する)

この件には報道される価値があります、そしてされました。我々はこのニュースについて、たくさんの発言をしました。フロリダ出身の議員が、これに怒りを表明しました。確かにこれはニュースにすべきです、間違いありません。

しかしながら、その報道の量や規模はあまりにも過剰です。

ところで、全く同日に、実際にアメリカ合衆国の大統領の座にあり、実際に権力を握り、実際に金正恩を含む強権的なリーダーたちと付き合いを持つ人物はインドにいました。そこのリーダーと自分は共に、過激なイスラムのテロリズムと戦っていると言っています。トランプはインドに二日間滞在しました。

まぁ彼は特に何もしたわけでもありませんが、ある人物には惜しみない賞賛を贈りました。その人物はインドの首相で、その政権は、2002年にイスラム教徒たちが暴力をもって迫害されて2000人が虐殺されたことを黙殺しました。

実はモディ首相は、その後数年間に渡り、合衆国への渡航ビザの申請を却下されていました。イスラム教徒への暴力を許していたからです。彼はインドの首相の座につくまで、合衆国に入国することを認められていませんでした。それがモディです。(以下略)」

いかがでしょうか。ヘイズの指摘は非常に重要なポイントではないでしょうか。

彼の言う通り、2016年の大統領選挙で、メディアはヒラリーのeメール問題を過剰報道していたが為に、彼女の具体的な政策を有権者に知らせる出来ませんでした。共和党側についての報道では、トランプに夢中になるばかりに他の候補者のことをないがしろにしていました。あることを伝えすぎてしまうがために、他の大切なことが伝わらないことがあるのです。

正にこのサンダースへの報道は、こういった過去の過ちを繰り返すかもしれない、その予兆なのかも知れません。

サンダースはインタビュー上でカストロの独裁体制を批判しており、それはCBSの番組上では放映されました。しかし、メディアはカストロの政策を評価したところばかりを過剰に取り上げて報道しています。また、彼の具体的な政策ももっと吟味されるべきであり、更に彼以外の候補者についても語るべきでしょう。

会ったこともないカストロについて語るサンダースについて長々と報じる一方で、過去に迫害行為に手を貸していたモディを実際に会い称賛するトランプのことを、あまり多くは報道していません。

とはいえ、アメリカのニュースメディアにはヘイズのように、内側から堂々と報道の在り方を問う人物がおり、それは彼らメディアの大きな財産なのかも知れません。

さて、こういったことを踏まえた上で、ひとつ日本の報道の在り方を考えてみるのも面白いかも知れませんね。

 

今回の記事を気に入ってくださった方は、ぜひこのブログ「ザ・フィルライト」のTwitterアカウントをフォローし、今後の更新をチェックしてください。

リンクはこちら→ https://twitter.com/thefilllightjp

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中