アメリカの感染拡大には未だ収束の見通しが立っていません。
ニューヨークでの感染者数は20万人、死者は1万人を突破しました。これにより10万人あたり感染者数は遂に1000人を突破しました。国内全体での感染者数は59万人で、明日にも60万人を突破するでしょう。
感染者数の規模で日本と段違いのアメリカですが、その話題にも大きな違いがあります。
それは宗教とCOVID-19の関係性です。
イースター(復活祭)の前日の4月11日、バージニア州のジェラルド・グレン牧師という黒人の牧師がCOVID-19に感染し死亡したと、彼の教会であるニュー・デリヴァランス・エヴァンジェリカル・チャーチが発表しました。
“神はこのおぞましいウィルスよりも大いなる存在だ”
グレン牧師は生前こう語っていたとメディアにより報道されています。
彼がCOVID-19の脅威を侮っていたのかはさておき、アメリカの報道では度々このような宗教界のウィルス感染との関わりやリアクションや報道されています。そこには科学と信仰の間に揺れ動くアメリカ人の葛藤のようなものが表現されています。
このような中で、一部の教会に批判が集まる出来事がありました。
感染拡大が進む中で、4月12日のイースター・サンデーと呼ばれる祝日に、いくつかの教会が集会を行ったのです。
ニュースサイトTMZは、ルイジアナ州で行われたイースターの集会の様子を写真と映像で報じています。記事ではソーシャルディスタンシングが全く守られておらず、数センチ間隔で人々が密集している様子が写し出されています。
アメリカ全体としては外出自粛のムードが非常に強い一方で、宗教界の一部には信仰をウィルスに備えることよりも優先するべきとする考えがあるようです。
幸いなことに、イースターの集会を行った教会の多くは自動車に乗ったまま参加出来るような形を取るなど、何かしらの対策を行いましたが、一部の教会の暴走には注目が集まることとなりました。
COVID-19を侮る共和党
またそのような宗教との繋がりが強いアメリカの保守派サイド、特に共和党は、このCOVID-19の脅威を今もなお過小評価しており、彼らの態度はマスメディアやSNS等のネットメディアからの批判を受けています。
4月14日現在、全米の多くの州では州知事令(エグゼクティブ・オーダー)や立法措置により、適用の範囲や強弱は異なるものの、不要不急の外出が禁止されています。筆者の住むミネソタ州では、民主党のティム・ウォルツ知事の州知事令により3月27日から4月10日までの外出禁止令が出され、更に4月8日のにはこの禁止令が5月4日まで延長されることとなりました。CNNによれば、現在アメリカ全体の人口のうち97%には不要不急の外出が禁止されています。
しかし、アイオワ州、ノースダコタ州、サウスダコタ州、ユタ州、ネブラスカ州、ワイオミング州、アーカンソー州の7州では未だに知事が外出禁止命令を発していません。そしてこれら7州の知事は全員が共和党からの選出です。
そもそも、最大の権限を持つトランプ大統領自身が、未だにCOVID-19の脅威を侮っているようです。
今週、大統領はホワイトハウスでのメディアカンファレンスにおいて、度々合衆国のリオープニング、すなわち経済活動の再開について言及しています。
ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事など各州の知事は外出禁止の終了については消極的な態度を示していますが、大統領はこれらに対して「アメリカ合衆国大統領の権限は絶対である」とし、各州政府の権限については「大統領の承認なしに、彼らは何も出来ない」と持論を述べました。司法の専門家たちは、憲法上の観点からみて彼の発言を「誤りだ」としています。
また、大統領はニューヨークでの感染が拡大する以前、「コロナウィルスは民主党が撒き散らしているデマだ」などとも発言しています。
ケーブルテレビ局のコメディ・セントラルの人気風刺番組デイリーショウ・ウィズ・トレバー・ノアはYouTube上において、共和党やFOXニュースを始めとした保守陣営が、如何に過去数ヶ月間においてCOVID-19をいかに過小評価し続けてきたかをまとめた動画をアップロードし、今回の保守派サイドからのCOVID-19対応は批判と嘲笑の的となっています。
このような共和党側のCOVID-19への数々のずさんな対応の中でも、最も危険視された物の一つが、先週4月7日に行われたウィスコンシン州予備選挙でした。
3月のスーパーチューズデイ以降、多くの州は予備選投票日の延期や、全ての投票を郵便投票によって行うようにするなど、このCOVID-19感染拡大下での特別措置を行ってきました。オハイオ州が投票を延期した最初の州となり、その後多くの州はオハイオ州に追随しました。
当初、ウィスコンシン州では民主党と共和党は共に4月7日の投票開催を強く推し進めていました。しかし、州内での感染が広まる中で民主党側はこれを断念し、民主党選出のトニー・エヴァース知事は、投票日を延期するために行動を始めました。
4月2日、ウィスコンシン州の連邦地裁は直接投票日の延期を却下しながらも、不在者投票期間を4月13日まで延長することを指示しました。しかしながら、共和党判事が多数である連邦最高裁はこの地裁の決定を覆し、不在者投票期間の延長も認めないものとしました。
そのような中でも感染が拡大する一方の状況下で、エヴァース知事は投票日直前の4月6日に州議会で特別会議を招集し、延期を承認するように呼びかけました。
しかし、共和党が多数を支配する議会はこれを拒絶しました。特別会議は僅か数分で終わり、共和党は7日の投票を強行しました。
同6日、知事は残された最後の手段として、越権行為の危険性を認めながらも州知事令(エグゼクティブ・オーダー)を発令し、これによって投票日を6月9日まで延期をすることを試みました。
しかし、ここでも共和党が脚を引っ張ります。共和党系判事が多数を占めるウィスコンシン州最高裁はすぐさまこの州知事令を却下しました。ここに民主党サイドも万策尽き、ついに7日の投票開催が確定することとなりました。
多くのメディアがこのウィスコンシン州の異様な決定に注目し、ニューヨークなどが感染拡大の真っ只中にあった4月7日にマスクを付けた人々が投票所に並ぶ姿がテレビ、新聞、オンラインメディアなどで報道されました。
三大ケーブルニュース局MSNBCのニューストーク番組モーニング・ジョーでは、司会のジョー・スカーボロ氏がこの決行を「私は過去25年間に渡って政治と関わり報道してきましたが、昨日のウィスコンシン予備選挙よりも無謀かつ公衆衛生に関して無責任な出来事を見たことがない」と痛烈に批判しました。
また、元海兵隊員で民主党のストラテジストを務めるジェイムズ・カーヴィル氏は「これは完全にウィスコンシン最高裁の判事の問題だ。彼ら(共和党)は、その権力を維持するために人々を殺そうとしているのだ。」と発言。
またSNS上ではこの最高裁共和党の決定を恨む声で溢れました。
そしてこの予備選挙と同時に投票が行われた最高裁判事選挙において、共和党系現職のダニエル・ケリー判事がリベラル派新人のジル・カロフスキー氏に敗れ、その席を失うこととなりました。
元々、今回のアメリカでのパンデミックの要因はトランプ大統領の初動の遅さにあるとする声も多いなか、このように保守派側、共和党が各地でおかしな対応を繰り返しています。こういった保守派の理解が難しい対応や考え方は、おかしなアメリカの姿の象徴であると言えるでしょう。
今月、CNNは民主党の大統領候補として選出が確実となったジョー・バイデン前副大統領への支持が52%、トランプへの支持が42%で、バイデンがトランプに11%リードしているという世論調査の結果を発表しました。
このような混迷が続いて行くと、11月の大統領選挙において大きな政治の変化が起こるかもしれません。