大統領直前:トランプに勝ちの目を残す選挙制度〜「アメリカ選挙人団」の割り当て問題

いよいよ明日投開票が迫るアメリカ大統領選挙ですが、前日の今に至るまで結果は全く予想もつかないものとなっています。

これには投票者たちがトランプという前代未聞の大統領の事をどのように捉えているのかという事を分析するのが難しい事などが理由に挙げられますが、それと同時にアメリカ選挙人団という複雑な制度が選挙全体の実像を捉える事を難しくしている点も見逃せません。

日本でも非常に有名な話ですが、アメリカ大統領選挙は単純な人気投票によって決着がつく事はありません。この大統領選挙には「アメリカ選挙人団(エレクトラル・カレッジ)」と呼ばれる複雑な制度があります。

世論調査では劣勢なトランプに逆転の目がある理由も、この選挙人制度にあります。

今回は明日の大統領選挙の結果をより理解する為にも、選挙人制度の仕組みについて解説していきたいと思います。

普通の選挙なら共和党は負け続き

1988年大統領選以来、アメリカでは八度の大統領選挙が行われ、共和党候補と民主党候補は共に四勝してきました。互角の勝敗でありますが、これはその「選挙人制度」という制度を通して生まれた結果です。

実はこれらの選挙において、共和党候補が民主党候補よりも多く票を取れた選挙は僅かに2回しかありません。それは父ブッシュが勝利した1988年と、子ブッシュが二期目を争った2008年の選挙で、それ以外の全ての選挙で共和党候補たちは一般投票に敗北しています。

ドナルド・トランプはヒラリー・クリントンに200万票差で敗北しています。

票数での勝敗だけを見れば共和党は二勝六敗であり、全く互角であったとは言えません。しかし、現実を見れば両党共に四勝で互角の結果となっています。このような状況を作り出すのが選挙人制度の奇怪な点です。

なぜこのような事が起こるのか、そこには「勝者総取り方式」と「選挙人の割り振り方法」いう二つの要因があります。

「勝者総取り方式」はあまりにも有名なシステムですので簡単に触れ、今回は「選挙人の割り振り」がどのように行われ、それが何故共和党に有利に働くのかを解説します。

そもそも選挙人制度とはどのようなシステム?

選挙人制度の中では、選挙の勝者は人々からの一般投票で決定されません。「選挙人」からの投票が最も多かった候補者が勝者となります。

「選挙人」は各州に決まった数が割り当てられ、彼らは自身の州での一般投票の結果に応じた投票行動を行います。

「選挙人」は全米に538人おり、そのうちの270を獲得した候補が晴れて大統領に当選する事となります。つまり、選挙人制度とは人々が大統領を直接選ぶ選挙ではなく、選挙人に選んでもらうという間接選挙となっています。

上にも述べましたが、この選挙人の取り合いは「勝者総取り方式」で行われます。

これは例えば9人の選挙人が割り振られている州においてトランプが一般投票の50%、バイデンが49%を獲得したとして、トランプが9人全ての選挙人を獲得出来るという制度です。

これがもしも総取りではなく、一般投票の割合によって各候補が選挙人を獲得出来る制度であれば、トランプが5人、バイデンが4人を獲得する事ができます。

ここに、前回大統領選挙でトランプが勝てた理由の一つがあります。彼は2016年に多くのスイングステイツ、いわゆる激戦州での一般投票に僅差で勝利しました。

選挙人29人のフロリダでは1.2%差、20人のペンシルヴェニアでは0.4%差、16人のミシガンでは0.3%差で勝利しました。ヒラリー・クリントンはこういった激戦かつ選挙人を多く抱える州において、ことごとく僅差で敗北してしまった事から、全国の一般投票ではトランプを2%上回っていながら、獲得選挙人数で負ける事となりました。

そもそも選挙人の割り振りは「地方に有利」

上の勝者総取り方式は人々の意思を正確に反映しないものであるため、この制度を改めるべきとしているアメリカ人は一定数いるのですが、仮に勝者総取りがなくなっても、選挙人制度は人々の意思を正確には反映しないでしょう。

大きな問題はその割り振りのやり方にあると考えられます。

選挙人は各州の人口比によって割り振られているわけではありません。

最も多いカリフォルニア州の人口は約4000万人、最も少ないワイオミング州の人口は57万人です。この二つの州の人口比は70:1であり、選挙人割り当てが正確に州の人口比率を反映するものだとしたら、その人数も70:1となるべきです。

しかし実際にはカリフォルニアの選挙人数は55、ワイオミングは3となっています。これにより、カリフォルニアはワイオミングの70倍もの人口を抱えているにもかかわらず、選挙人数は18倍しか貰えていないことになります。

これにより、州の間では最悪の「一票の格差」が生まれてしまっているのです。

先に言ってしまうと、この割り振りと一票の格差は田舎に有利であり、更に田舎を地盤とする共和党に有利な制度となっています。その要因は割り当て数の決まり方にあります。

各州への選挙人割り当て数は「その州が輩出している連邦下院議員の数+その州が輩出している連邦上院議員の数(全州一律2名)」となっていますが、まずこのうちの上院議員の割り振りが不公平なものとなっています。

日本の参議院にあたるアメリカの上院は全ての州に2議席ずつ与えられています。人口4000万人のカリフォルニアも、57万人のワイオミングも、等しく2議席を持っているのです。

日本人からすれば余りにも異常な票格差に見えますが、このシステムはアメリカが「連邦国家」である事を象徴していると言えます。

連邦国家であるアメリカにおいて、人々の主権と同様に「連邦構成国」である各州の主権も尊重されます。各州はその人口の多寡に依らず対等であるべきであり、「人々の代表」である下院では人口比を重視した議員の割り振りがなされる一方で、「州の意思を代表」する上院においては人口比を無視した各州定数2名という制度を採用しているのです。

下院の議席はヒル方式というシステムで各州に割り振られます。下院の議席数は435議席ですが、ここからまず最小の1議席を50州に割り当て、残りの385議席を人口比によって配分していくシステムです。

これによりカリフォルニアは53議席、ワイオミングは最小の1議席を保持しています。人口比を完全に再現するものではありませんが、それに近い比率にはなっています。

大統領選挙ではこの下院議席数に上院の定数2を足した数の選挙人を争う制度であるが故に、州の間の一票の格差は非常に大きなものとなっているのです。

さて、このような割り当てをされる選挙人制度は、田舎にとって非常に有利な制度となっています。州の人口が希薄であればある程に、その州に住む投票者は一票の格差でより強い力を得る事ができます。

保守政党である共和党は、このような状況を活用しています。彼らの主な支持層は保守的な地方の白人たちです。上で述べたように、人口が希薄な州はより大統領選でより強い力を持っており、カリフォルニアのような大きな州を一つ取るよりも、ワイオミングのような小さな州を数多く取る方が、より効率よく選挙人を獲得する事が出来ます。

その結果、共和党候補が「一般投票で敗北しているのに獲得選挙人の数では勝った」、という事がしばしば起きるのです。

トランプは全国支持率調査で常にバイデンの後塵を拝してきましたが、ここに彼の勝ちの目があります。共和党候補であるトランプは、より少ない獲得投票数で、より多くの選挙人を獲得する事ができます。

クリントンやオバマといった民主党の大統領たちは、そういった不利を彼ら自身がもつカリスマ性によって覆してきました。

バイデンは果たして彼らが持っていたような魅力を今回の選挙戦で発揮出来たのでしょうか。また反トランプというネガティブな旗印で、構造上の不利を覆すほどの支持を得る事は出来たのでしょうか。

明日、現地の11月3日はいよいよ投票日です。

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