アメリカでは日本などに先駆けて大規模な対コロナウィルスワクチンの投与が開始されており、オックスフォード大学のOur World in Dataによれば、2月28日現在4700万人が1回以上の投与を、2200万人が必要回数分の投与を受けています。
1日の新規感染者数のピークは1月半ばの20万人で、そこからは順調に数を減らし、2月26日の新規感染者は約7万人でした。
一方で現在のアメリカが抱える深刻な課題は、依然として最もワクチンを必要としている人々にそれが届いていない状況であると言えます。
ミネソタ州の地元紙Star Tribuneは、ワクチンを得るために奔走する人々の様子と新たな試みについて取材した記事を掲載しており、今回はそれを紹介したいと思います。
ミネアポリスのモーラ・カルドウェルさんの望みは、60代の両親にワクチンを摂取して貰うことでしたが、その希望は数百人の人々(その中の何人かは車椅子や杖を用いていました)が南ミネアポリスの児童病院に詰め掛ける姿を見たときに失われました。
彼女自身と両親のように多くの人々は、その病院で余りのファイザーワクチンが出たという噂をクチコミで知ってやってきました。極寒のミネソタの朝、十分な数のワクチンがあるか分からない状況で人々は車やバスの中で暖を取りながら自分の番が来るのを待ちました。
カルドウェルさんの両親は不安げに4時間待った後に、なんとかワクチンの接種を受けることができました。
カルドウェルさんはこのような状況を「ハンガーゲームのようだった」と語りました。ハンガーゲームはバトルロワイヤルのように、自身が生き残るために他者を打ちまかす様子を描いた映画作品です。
このような経験から、カルドウェルさんはFacebookのコミュニティグループ ”Minneapolis Vaccine Hunters” を立ち上げました。これは混乱しているワクチン投与の手続きの中で、主にコミュニティに属するお年寄りたちをナビゲートするためのグループです。
様々な所へ実際に足で向かって、彼女の両親は幸運な事にワクチン接種を受ける事ができましたが、このような状態はワクチンの数量が非常に不足している現状を表しているとも言えます。
2月20日時点、ミネソタ州において一度目のワクチン接種を受ける事ができていたのは全人口のたった13%でした。
多くのミネソタ人は、ワクチン提供者側がクリアな情報を提供していない事に不満を抱いており、彼らはカルドウェルさんが立ち上げたグループへ流れ込みました。現在グループでは政府やワクチン供給者側からは出されていないリアルタイムの情報がやり取りされています。
更にこのグループは、ワクチンの供給システムが大きな問題を抱えていることを示唆しています。それはワクチン接種へのアクセスに不均衡が起きているということです。それはつまり、より必要としている人々へ適切な供給がなされていないということです。
63歳でステージ4の肺がんを持つ男性は、その年齢のために投与を拒否されました。
2回の腎臓移植をして免疫力が弱っている男性も、オンライン上での予約を試みたものの、これを拒否されました。
ダウン症の子供を持つ親は何度もワクチン接種を申請しましたが、それらは拒否されました。染色体異常がある人物は、その他の人々よりもCOVID-19による死亡リスクは10倍にもなるという研究結果もあるようです。
このような人々がワクチンを探すのに、カルドウェルさんが立ち上げたFacebookのグループは非常に役立っていますが、ソーシャルメディア上での情報のやり取りに頼らなければならない程に、政府機関から提供される情報は不十分であり、更にこのような手段に出て情報を得なければならない「差し迫った人々」が出てくる事は、すなわちワクチンの供給方法自体が非常に不適切かつ乱雑なものである状況を表していると言えるでしょう。
ワクチンが広まりつつある事はアメリカにとっては良い事ですが、一方でワクチン投与にも規律を持って行わなければ人々が安心する事も出来ません。無軌道で乱雑なやり方は、人々の新たな不安の種となっているようです。