「マスク嫌い」を政治戦略とするアメリカの保守層

日本の主に都市部を中心とした地域では今日9月13日から緊急事態宣言が延長されました。緊急事態宣言などの措置については様々な立場や視点から議論がかわされていますが、海外、特に欧米各国ではコロナウィルスに対する社会規制がどのように受け止められているのでしょうか。

2021年春頃にPew Reserch Centerが行った調査により興味深い事実がわかりました。

アメリカやヨーロッパ、特にフランスなどにおいてはマスク着用やワクチン接種に激しく抵抗する人々が多くいることは、日本の様々なニュースメディアでも伝えられており有名ですが、調査はその内実を示すものとなっています。

Pew Researchによれば、ギリシャやフランスなどの国を除く多くの国に見られる傾向として、思想的に右派の人々ほどコロナウィルスに対する社会的な規制を嫌う傾向にあるとされています。

グラフでは青い点が左派、黒い点が中道派、緑の点が右派の立ち位置を示しており、右側に行く程に「社会規制を減らすべき」と考える人が多い事を示しています。ほとんどの国で、右派はグラフ上で右側にいることがわかります。

この思想的な立場によるギャップが最も小さい国はスウェーデンで、スウェーデンの右派のうちの10%は社会規制を減らすべきと考え、左派は3%となっています。両派の間のギャップは7%であり、スウェーデンではコロナ対策という点においては思想信条を超えて国内がある程度団結して物事に対応していく意思があるように見えます。

多くの国で左派勢力はコロナウィルスに対応する社会規制の強化に肯定的ですが、ドイツでは左派のうちの17%は規制に反対しており、これは他国の水準と比べて多い部類となっています。ドイツは個人主義が強い事でも知られているため、これは自然な事なのかも知れません。

グラフが示すアメリカの分断

全体の傾向がどうあれ、ほとんどの国においては右派と左派のギャップは大きくても約20%程度ですが、アメリカだけは事情が異なります。

アメリカでは規制反対が左派では7%にとどまるものの、右派は52%となっており、両派間のギャップは45%となっており、これほどの大きなギャップはアメリカ以外の国では見られません。

アメリカではトランプ政権下の頃よりコロナウィルスに対する様々な規制が政治の争点とされてきました。しかし、バイデン政権へ移行してからもこういった分断が残されている要因は様々であるといえます。

先週バイデン政権は飛行機搭乗客に対するマスクの強制を強化するなど、新たな規制の方針を示しましたが、アメリカの保守勢力はこのようなアクションに対して常に強い反発を示します。

そのような保守勢力の動きについて興味深い記事を2つほど見つけたので紹介したいと思います。

共和党の選挙対策

NBCの政治記者であるジョナサン・アレンは、ワシントンD.Cの共和党議員らが自らの票稼ぎのためにこういった規制に声高に反対していると分析しています。

記事ではマスク着用の奨励はトランプ政権の頃に示された政府方針であったにも関わらず、近頃は様々な共和党議員がマスク着用とワクチン接種を進める事に反対してる点を取り上げています。

そして上記のPew Research以外の調査結果としてオンラインニュースのThe Hillの調査を引用して、共和党支持者のうちマスク着用に反対している人口の割合は59%であり、こういった共和党議員たちの動きは彼らへ向けたパフォーマンスであると指摘しています。

彼らにとっては民主党のコロナ対応を失敗しているものとして喧伝する意味があり、またマスクやワクチン接種を遅らせる事で感染者を増やすことで政権側の足を引っ張る目論見があるのかも知れません。

ノイジーマイノリティの戦略

The Atlanticはアメリカ国内の規制に反対する保守主義者たちの動きをマイノリティが取れる戦略の一環であると分析しています。

ここで極めて重要なのは、左派や右派といったフィルターを取り払って見てみると、国内の多数派は各種規制や義務化に対して概ね肯定的であるという点です。記事で紹介されている事実をいくつかピックアップしてみると、例えばアメリカ人の69%が学校、63%が公共空間でのマスク着用義務化を支持しており、55%が雇用主による被雇用者へのワクチン接種の強制を支持しています。

またワクチン接種に抵抗する人々がメディアで取り上げられるのに対して、実際にはアメリカの成人の約7割は2回以上のワクチン接種を済ませています。

上のPew Researchのグラフでも、右派と左派のギャップは大きいものの、右派の4割以上が各種規制強化に賛成であり、アメリカ人全体で見れば規制強化に賛成する人口が多数派という事になります。

そして少数派である彼らに使える数少ない戦略の一つがノイジー・マイノリティになる事なのかも知れません。

記事を引用すると

「(マスク反対派などが少数派であることを示した上で)おそらく、これはなぜ少数派がノイジーにあるのか、そしてそれが非常に効果的であるのかを示している。怒れる親たちがマスク義務化の導入を検討する学校の職員らに当たり散らす様子を収めたビデオが拡散された。そしていくつかの州の知事や議員らはコロナウィルス対策法案を阻止した。」

とあります。また、過去にドナルド・トランプが保守派の中でもマイノリティであった過激な主張を、その話題性をもってたちまち共和党のメインストリームに押し上げた事などと比較しています。

アメリカ国外のニュースメディアではマスク着用、ワクチン接種、各種の行動規制に対して反対するアメリカ人の様子が報道されていますが、それらは必ずしも一般的なアメリカ人のコロナウィルスに対するスタンスを示しているわけではないということです。しかしながら、それらが今後主流になっていく可能性は排除出来ません。

これは私たちのメディアリテラシーを試す事案なのかも知れません。

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