アメリカでは12月半ばからコロナウィルスの感染が尋常ではないペースで拡大しました。12月第2週の一日平均の新規感染者は約12万人でしたが、1月3日の新規感染者数は100万人を超え、過去最大の数字となりました。
こういった状況を引き起こしている大きな要因の一つとして挙げられるのがオミクロン株の流入で、関係機関の発表によれば既に国内感染のうちの95%がオミクロン株のものに置き換わっています。
このように新型株の感染力の高さが指摘される一方、当局の取り組み方もまた疑問視されています。
アメリカ公共ラジオ局のNPRは、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)が批判を受けている事を報じています。
今回はNPRの記事「CDC is criticized for failing to communicate, promises to do better. (CDC、コミュニケーションでの失敗を批判され、改善を約束する。)」を紹介します。
窓口が足りていないという問題
NPRが特に問題視しているのは、CDCが組織内外との様々なコミュニケーションに失敗している、あるいはコミュニケーションが不足しているという点です。
2020年の大統領選挙において、ジョー・バイデン大統領候補(当時)は、コロナ対応や気候変動などの直面している様々な問題の解決において、科学者・専門家たちを中心に据える事、そして彼らを公共的なコミュニケーションの中心に据える事を公約としていました。
しかしながら、現状ではその専門家集団たちはホワイトハウス内のコロナ対応チームの会議にのみ現れ、公衆とのコミュニケーションの現場に現れる事は稀であるといいます。
CDCが抱える多数の専門家たちもまた公に対して直接的なコミュニケーションを取ることを避けており、頻繁に表に出てくるのはロッチェル・ヴァレンスキー長官のみとなっています。
オバマ政権時代のCDC長官であったトム・フライデン博士は現在のCDCの態度をこのように批判しています。
「CDCにはこれらの諸問題において世界的なレベルの専門家たちが在籍しています。彼らは非常に熱心な科学者です。彼らはヴァレンスキー博士と共に、一般大衆に対して直接語りかける必要があります。」
「こういった緊急時にはより多くのCDCの関係者が直接的に一般大衆に語りかける事で、事態を改善していくことが出来るでしょう。」
ヴァレンスキー長官はこういった声を受け、金曜日にブリーフィングを開くことを決定し、更に報道機関に対して今後コミュニケーションの改善に務める事を約束しました。
情報の過多によって混乱を招く可能性もありますが、CDCの専門家たちが個別に情報発信する機会が増えれば、その分人々の生活の中での判断材料も増えていくこととなるでしょう。またCDCの透明性も増す事で、一般の人々からの信頼を得る事も出来るかも知れません。
CDCはヴァレンスキー長官以外の外的なコミュニケーション窓口を増やしていく必要があるのかも知れません。
よりインタラクティブになるべき
このような「直接語りかける」というコミュニケーション手法を、CDCは今まで採用してきませんでした。彼らはもっぱら文書での発表を好み、「CDCは緊急事態でのコミュニケーションにおいて、文字通り”本を書く”」とはフライデン氏の言葉です。
ジョージア大学で健康危機でのリスクコミュニケーションについて研究するグレン・ノヴァク教授は、記者会見は極めて大きな意義があるとしています。
「2009年のH1N1の時には8週間の間、週末も含めた毎日記者会見が開かれていました。それもなにか新しい情報、異なる情報が得られるまで、必要な限り十分な長さの記者会見が。」とノヴァク教授は語っています。
さて、このパンデミックの始めの頃、2020年の1月頃にはまだCDCによる記者会見は頻繁に行われていました。当時のCDC長官であったナンシー・メソニエ博士はオンライン会見を開くなど、直接的な発信を行っていました。
しかし2月25日に事態は変化したといいます。この日メソニエ氏はブリーフィング上で
「この事態は悪化する可能性があります。私は今日の朝食の時に家族と話しました。子どもたちには、今すぐに危険に晒される事はないけれど、いずれ私達の家族も生活する上で重大な混乱に備える必要があると言いました。」
と語りました。
翌日、メソニエ氏のコメントが引き金となり、金融市場は下落しました。当時のドナルド・トランプ大統領はこれに激怒してメソニエ氏を長官から解任し、新たにマイク・ペンス副大統領をリーダーとしたホワイトハウスのタスクチームを形成。以降コロナ対応のコミュニケーションはCDCではなくタスクチーム側の役割となっています。
その後当選したバイデン大統領は、ファウチ博士に代表されるような専門家たちを再びコミュニケーションの前面に押し出す事を公約としていました。
実際に現在、大統領の首席医療アドバイザーのファウチ博士とCDCのヴァレンスキー長官はホワイトハウスの記者会見の現場や、その他テレビ番組などの場に頻繁に現れて直接的なコミュニケーションを行っています。
しかしながら、バイデン政権下においてもそれ以外のCDCメンバーや専門家たちはそういった場に登場することはありません。また、実はCDCによるテレブリーフィングの回数はトランプ政権下よりも減っているとされています。
トランプ政権下の2020年には28回開かれていたテレブリーフィングですが、バイデン政権下の2021年では僅か2回しか開かれていません。
今回のヴァレンスキー長官の改善への約束は、このように激減したコミュニケーションが再び活性化する兆候を示す、良いニュースであると言えるでしょう。
フライデン氏は記者会見のような直接的なコミュニケーションについて、この様に語っています。
「それらはただ一般の人々に情報を伝えるだけの為に行われるわけではありません。記者会見ではしばしば、頭の良いジャーナリストたちが厳しい質問をぶつけてきます。すると我々は思い知らされるのです。ああ、私達は私達が思っていたほどに分かりやすく説明できてなかったのだ、と。あるいは私達が考えもしていなかった問題に気づく事もあるのです。」
引用・参考元