2019年11月16日現在、アメリカのTwitter上では #TooFarLeft というハッシュタグがトレンド上位に上がり、このハッシュタグを用いたツイートが約10万件も投稿されています。
Too far-left とは日本語に訳せば「超極左」です。なぜこのような言葉がTwitterのトレンドに上がったのでしょうか。きっかけはバラク・オバマ前大統領の演説と、それを報じたニューヨーク・タイムズのリサ・ラーラー記者による記事及びツイートでした。
Obama wades into the 2020 race, warning of the dangers of listening to “certain left-leaning twitter feeds” or “the activist wing of our party.”
“Even as we push the envelope and we are bold in our vision we also have to be rooted in reality,” he said. https://t.co/OioCWy4pbv
— Lisa Lerer (@llerer) November 16, 2019
オバマ氏、2020年の大統領選に口を挟む。「現状の左派寄りなツイッターの潮流」や「我が党(民主党)の活動家派閥」の危険性について警告した。
「どんなに限界を押し広げ、大胆なビジョンを持つとしても、同時に我々は現実に根ざしていなければならない。」と語る。
— Lisa Lerer (@llerer) November 16, 2019
記事は、Democracy Alliance(左派系の政治団体・組織に対して数十万ドル単位の寄付を行う、裕福な進歩主義系支援者が集まるグループ)の年一度の会合で、オバマ前大統領が行った演説について報じており、現在白熱しているの民主党予備選挙に関する発言にフォーカスしています。
以下、記事を抜粋し引用
オバマ氏は特定の候補者への支持を明言していない。しかし彼は、民主党候補を支持するかもしれない民主党員、中道派、そして穏健な共和党員たちは、 “左派寄りなツイッターの潮流” や “民主党内の活動家派閥” と同じような政治観によっては動かされない(そのような価値観を共有していない)ことを警告した。
「どんなに限界を押し広げ、大胆なビジョンを持つとしても、同時に我々は現実に根ざしていなければならない」そして、「平均的なアメリカ人は、システムを根本から破壊し再生させるようなやり方を求めてはいない」とオバマ氏は語った。
https://www.nytimes.com/2019/11/15/us/politics/barack-obama-2020-dems.html
これらの発言は誰かを直接的に批判したものではありませんが、現在支持を集めるエリザベス・ウォーレン上院議員やバーニー・サンダース上院議員への潜在的な批判ととれます。
記事本文の中での発言では、オバマは ‘Too Far Left’ 超極左というような言葉を使ってはいません。この言葉が出てくるのは記事のリード部分です。
オバマ前大統領はリベラル派支援者らの会合で予備選候補者たちに対し、’Too Far left’ 超極左的にならぬようにと警告した。
これが記事のリード部分となります。
ラーラー記者の記事はTwitter上で9,000回以上リツイートされており、特に強烈なフレーズであった’Too Far Left’ はハッシュタグ #TooFarLeft となって議論の的となっています。
このハッシュタグを立ち上げたのは、ヒラリー・クリントンの元ストラテジストで現在は政治ブロガー・文筆家として著名なピーター・ダウ氏のツイートです。
CONFESSION: I’m Too Far Left™
I’m #TooFarLeft because I want kids to be safe in school.
I’m #TooFarLeft because I want people to live in dignity.
I’m #TooFarLeft because I seek justice and equality.
I’m #TooFarLeft because I think healthcare and housing are human rights.
— Peter Daou (@peterdaou) November 16, 2019
告白:私は超極左™️です
私は #超極左 です、なぜなら子供たちには学校で安全に過ごして欲しいから。
私は #超極左 です、なぜなら人々が尊厳と共に生きて欲しいから。
私は #超極左 です、なぜなら私は正義と平等を求めているから。
私は #超極左 です、なぜなら医療と住居は人権であると思うから。
— Peter Daou (@peterdaou) November 16, 2019
*(™️はトレードマーク、それも「今後商標登録される予定のもの」という意味のシンボルです。詳しい意図は不明ですが、「超極左」という言葉を所謂ワシントンのエリートたちが自分たちを批判するための道具にさせない、自分たちの物にしてしまおう、という考えの元に™️を使用したと推察できます。)
このダウのツイートは約7,500回リツイートされています。また彼は別のツイートで以下のようにも発言しています。
Yes, I started the #TooFarLeft hashtag partly in response to #Obama‘s comments. But that wasn’t the main reason.
Too Far Left™ is the default attack line by the entire political/media establishment to dismiss progressives and leftists who want a better world.
— Peter Daou (@peterdaou) November 16, 2019
(前段省略)
超極左™️とは、政治及びメディアのエスタブリッシュメント層が、より良き正解を臨進歩主義者や左翼を退ける為に使う、常套的な攻撃フレーズです。
— Peter Daou (@peterdaou) November 16, 2019
ダウのツイートをきっかけに、Twitter上では I’m #TooFarLeft because… (私は #超極左 です、なぜなら…)という文体を真似たツイートが多数投稿され、彼らはオバマの発言に反発しています。
「Too far left」そのものはオバマの言葉ではないとはいえ、彼がウォーレンやサンダースに対して否定的なニュアンスの発言をしたのは事実です。この背景には民主党候補の二極化があります。
来年11月の大統領選挙でドナルド・トランプ大統領と戦う候補者を選出するため、民主党は予備選挙を行います。予備選挙の投開票は各州バラバラの日程で行われ、2月にアイオワ州から始まり、6月中旬にワシントンD.C.で決着します。この予備選挙を勝ち抜いた候補が民主党の正式な指名を受け、現職のトランプと本選で戦うこととなるのです。
現在はこの予備選挙に向けたキャンペーン期間です。候補者たちは月に一度のテレビ討論会や全米各地での集会に出席したり、ソーシャルメディア上で発信するなどの方法を用いて、支持者に対し政策をアピールしています。
この予備選挙へ向けたレースで、現時点で最も支持を集めている候補は三名います。オバマ政権で副大統領を務めたジョー・バイデン。そして前述したサンダースとウォーレンです。
この三名のうち、サンダースとウォーレンは非常にラディカルな左派であるとされています。
サンダースは前回の大統領予備選挙で「社会主義者」を自称し、大学の無償化などを訴えて若者の熱烈な支持を集めました。今回の予備選挙では Medicare for All という無償の国民皆保険制度を大きな旗印としています。
ウォーレンは2013年に上院議員となる以前は商法や破産法を専門とする法学者でした。特に熱烈な消費者保護論者として著名で、「ウォール街最大の敵」とも言われていました。彼女は今回の予備選挙でサンダースと同じく国民皆保険制度を提唱しており、富裕層への資産税の導入を公約として発表し、大きな話題となりました。
アメリカには過去に公的な皆保険制度が存在したことがありません。そのような歴史の中で、彼らが提唱する無償の国民皆保険制度は、非常にラディカルなアイディアとして捉えられています。
一方のバイデンは、他の候補者と比べても穏健な左派とされており、無償の医療保険制度などに対しては慎重な立場です。
リベラルな民主党候補者たちの間でも、若者が支持する極端な進歩主義者と、中高年が支持する穏健な左派政治家という分極化が起きており、オバマはこのようなリベラルの分裂が大統領選挙本選に与える悪影響を危惧しているのです。
オバマがこのような発言をしたのは初めてのことではありません。彼はとりわけアメリカのリベラルな若者たちの態度について批判的な発言をしています。
彼は10月30日のオバマ財団でのサミットで以下のように発言しています。
この純粋さ、絶対に妥協しない姿勢、政治的に “目覚めている” という感覚。そんなものはすぐにでも捨て去るべきだ。
世界は雑然とした場所であり、あいまいとしている。良き人とされる人にだって欠陥はある。そして、あなたが戦っている誰かにだって愛する子供がいるかもしれない。彼らとあなたに共通することだってある。
ソーシャルメディアによって加速している、若者たちのある種の考え方を感じている。それは『変化を生み出す方法とは、他の誰かに対してとにかく批判的に振る舞う』というものだ。そんなのはもうたくさんだ。
もしも私がツイートとかハッシュタグを使って、「君たちの動詞の使い方が間違ってる」とか「この行いが間違ってる」なんてことを指摘したら、それはもう気持ちよくくつろげるというものだよ。だって「君は私がどれだけ “目覚めてるか” が分かっただろう?どうだ、批判してやったぞ!」って言えるわけだ。
でもそんなものはアクティビズム、政治運動じゃない。そんなものは変化をもたらさない。もしあなたがやってるのが誰かに石を投げつけるというだけの事だとしたら、それで何かが進歩するというのか?簡単なことだ。
引用元:Barack Obama takes on ‘woke’ call-out culture: ‘That’s not activism’ / Guardian News
サンダースやウォーレンに傾倒してバイデンら穏健な左派を批判する若者たちへ向けられたようなメッセージです。
わずか2週間前にこのように発言していたオバマでしたが、皮肉な事に今回の彼の発言はまさに「ツイートとかハッシュタグを使って」「批判される」こととなりました。
このようなソーシャルメディア上の反応。ハッシュタグ #TooFarLeft こそが、彼が危惧しているリベラル層の分裂状況を如実に表しているのかも知れません。