アメリカ大統領選挙のほぼ全ての開票が完了し、投票の上ではジョー・バイデン前副大統領の勝利が確定しました。
敗北したドナルド・トランプ大統領は今後法廷闘争に持ち込むとしており、Qアノンや多くのトランプ支持者は不正投票があったと訴えていますが、それらの主張に根拠はなく、所詮は陰謀論です。
さて、今回の選挙結果からアメリカの政治メディアは様々な事を分析しようと試みていますが、その中でアメリカのウェブニュース「デイリービースト」に興味深いオピニオン記事が掲載されていたため、今回はそれを紹介しようと思います。
アメリカの分断を深めたトランプ政権
筆者はかつて、トランプが生み出した分断が彼自身の首を締めている事についての記事を投稿しました。
米大統領選、自ら生み出した分断で窮地に陥るトランプ〜分断の果てに消える浮動層
結果として大手メディアや左派メディアが予測していたような民主党の地滑り的な勝利は起こりませんでしたが、バイデンは一般投票数で約5%の差を付けてトランプに勝利する事となりました。
上の過去の投稿ではトランプが生み出した分断により、トランプは自身の熱烈な支持者たちとそれ以外で世界を区切ってしまい、それが2016年の勝利につながったものの、今回はそうはいかないという予測を紹介しました。
結果として地滑り的な勝利ではなかった為、民主・共和両党に属さない中道派の浮動票については両候補とも取り込む事ができ、それが過去最大の投票数につながった可能性があります。
一方で、トランプの分断により今回の選挙での民主党と中道派、特に中道左派の間の結束は、2016年に比べても強くなったようです。
史上稀な左派と中道派の連携
デイリービーストは、今回の民主党と党外中道派による強力な連携は、フランクリン・デラノ・ルーズヴェルトが勝利した1936年の大統領選以来の事であるとしています。(ニューディール連合)
トランプはしきりにバイデンに「社会主義者」というレッテル貼りをしようと試みていましたが、例えばフラッキング(シェールガス開発)の件などでもそれを止めない方針を示すなど上手く立ち回り、世間には自身が中道寄りの人物であるというイメージを浸透させることが出来たといいます。
一方でバイデンは民主党予備選の頃の主張を大きく曲げることはなく、バーニー・サンダースをはじめとした非常に進歩主義的な左派勢力の掲げる政策を一部取り入れながらも、それらを非常にマイルドな形の公約にまとめました。
これにより進歩主義派はバイデンから離れる可能性があり、実際に極左メディアはバイデンに批判的な態度でしたが、彼らをリードする言論人であるマルクス主義者アンジェラ・デイビスや哲学者のノーム・チョムスキーらはジョー・バイデンへの支持を表明し、更にバーニー・サンダースも自身の支持者らへバイデンへの投票を訴えました。
これによりバイデン陣営は民主党内の結束を強固にしつつ、中道派の浮動票も自身のキャンペーンに取り込む事ができたと言います。
ここで重要なのは、リベラル派はこういった連合を維持し続ける事が出来るか否かという点になります。
結束を維持できなければまた逆戻り
バイデンを勝利させたこの連合を維持することは並大抵の事ではありません。
サンダースを信奉する進歩主義者の一人であり、ミレニアル世代のリーダー的存在であるアレクサンドリア・オカシオ・コルテス(AOC)は、予備選におけるバイデンの勝利が確定的になるとすぐに彼をを支持する声明を出しました。
しかし、一方で彼女は自身のインスタグラム上で「バイデンに投票するのは彼の政策に賛成しているからってわけじゃない。私たちの民主主義の明日を守るために投票するの。」と語っています。
これはつまり、AOCら進歩主義者からすれば今回の連合はトランプをホワイトハウスから追い出す為のものにすぎず、バイデンが政権を取れば彼の政策と戦う意思表示です。
事実として、バイデンはブラックライブズマターのような人権運動への支持を表明している一方で、進歩主義者たちから上がる警察解体の声には反対しています。バイデンは警察組織の解体なしでの改革に挑むとする立場です。
さて、仮にこの連合が失われたとしたらバイデン政権はどうなるでしょうか。彼らは確実に次回の選挙で沈む事となるでしょう。しかしこの問題の鍵を握っているのは進歩主義者たちの側であり、バイデンは非常に難しい政権運営を行わなければなりません。
仮に進歩主義者たちが再び彼ら自身の主張のために政治的な闘争を始めた場合、民主党内には再び大きな亀裂が入る事となり、結果としては共倒れとなってしまう可能性があります。
2018年の中間選挙で下院民主党は議席数を大きく伸ばし、今回も再び過半数を確保しました。この勝利の背景には、共和党と民主党の間で揺らぐ選挙区を獲得できた事があるといいます。
デイリービーストはヴァージニア州7区選出の下院議員アビゲイル・スパンバーガーの例を紹介しています。
スパンバーガーが立候補したヴァージニア7区は40年近く共和党が独占してきた地域ですが、彼女は2018年に票数わずか2%差で勝利しこれを民主党のものにフリップさせました。彼女は今回2020年下院選でも勝利しましたが、その差は更に小さい1%差であり、まさに薄氷の上の勝利でした。
現在徐々に人口動態的に民主党に優勢となりつつある地域においては、このようなギリギリの戦いをしている候補者たちが数多くいます。
進歩主義者たちが仮にバイデンとの対決姿勢を強め、時期大統領予備選で進歩主義者の候補者を擁立するような事になれば、民主党内は再び二つに割れる事となります。そのような状況となればバイデン自身も敗北しますし、更に上のスパンバーガーのようなギリギリの選挙区での戦いも極めて危ういものとなり、共和党は再び上下両院での勢力を取り戻す事となります。そうなれば2016年と全く同じ事です。
バイデンは進歩主義者たちに歩み寄る態度を見せながらも中道派の人々の支持を繋ぎ止める必要があるため、大きく左に偏った政権運営をする事は出来ません。
トランプは2024年大統領選への再出馬をほのめかしているとの報道がありますが、再びトランプ、またはトランプ主義者の世の中に戻るか否かは進歩主義者たちがどの程度の妥協を出来るのかにかかっているのかもしれません。
引用・参考
Trump’s Greatest Accomplishment: Uniting Left and Center Against Him – Daily Beast